タンパーの扉   (「エスプレッソの扉」別館)
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タンパーとタンピングの基礎知識

エスプレッソ抽出とタンピングの理論
 なぜエスプレッソ抽出においてタンピングが必要なのかを説明します。

1.コーヒーの抽出

 コーヒー豆は細胞の一つ一つに旨味成分が詰まったカプセルのようなものです。この旨味成分をお湯の中に溶かし出す作業がコーヒーの抽出であり、コーヒーの歴史とともに世界中で様々な抽出方法が考案されてきました。

 コーヒー豆の細胞の一つ一つには、旨味成分だけでなく、雑味成分も詰まっています。旨味成分は比較的急速にお湯の中に溶け出しますが、雑味成分は比較的緩慢にお湯の中に溶け出します。したがって、旨味成分をお湯の中に溶かし出しつつ、雑味成分がお湯の中に溶け出ないように抽出できるか否かが、良い抽出と悪い抽出を分けます。たとえば、必要以上に長時間抽出を続けていると、雑味成分が多く溶け出し、いわゆる「出がらし」になります。


2.ドリップコーヒーの抽出

 普通のペーパーフィルターを用いたドリップコーヒーの場合、注がれたお湯はコーヒー豆の粉の間をくぐり抜けながら下に落ちていきます。このとき、お湯に接したコーヒー粉の表面から旨味成分がお湯の中に溶け出すので、落ちてきたお湯がコーヒーになります。

 豆を細挽きにすると、お湯に接するコーヒー粉の表面が増えるので、より多くの旨味成分がお湯の中に溶け出し、より濃厚なコーヒーになります。しかし、更に濃厚なコーヒーを求めて更に細挽きにしていくと、表面張力のために水はけが悪くなります。お湯がなかなか下に落ちなくなってしまうと、お湯が粉に接する時間が長くなるので、雑味成分まで溶け出してきてしまいます。

 したがって、お湯が重力で落ちるに任せるドリップ方式では、これ以上濃厚なコーヒー抽出は困難です。


3.エスプレッソの抽出

 そこで先人は、蒸気、ピストン、ポンプなどによる圧力を利用してお湯を押し出し、強制的にコーヒー粉の間を通すことを考えました。これがエスプレッソという抽出方法です。圧力とコーヒー豆の挽き具合を上手に調節すれば、お湯が粉の間を通り抜ける時間を調節することができます。ポンプ式マシンの抽出圧力が一般的に9気圧とされているのは、先人の試行錯誤による経験則です。

 こうして、より細挽きの豆を使ってより多くの旨味成分をお湯に溶かしだし、結果的により濃厚なコーヒーを抽出することが可能となりました。・・・と思いきや、まだまだこの抽出方法には問題点がありました。圧力のかかったお湯を制御するのは大変なのです。


4.お湯の制御の難しさ

 たとえば、仮に重力が地球の9倍である惑星上でドリップコーヒーを抽出するとしましょう。これだったら、細挽きの豆を使ってもお湯は快適に下に落ちていくはずです。・・・しかし残念ながら、これでは濃厚なコーヒーにはなりません。なぜなら、地球上の9倍の力で引っ張られるお湯は、ペーパーフィルターの中のコーヒー粉をかきわけて、注がれた場所から一気に真下に落ちていくからです。これではお湯に接するコーヒー粉はごくわずかなものに限られてしまい、接した部分はたちまち出がらしになってしまう一方、接していない部分からは旨味成分が溶け出ません。

 エスプレッソマシンのフィルターの中でも状況は同じです。もしコーヒー粉を軽く盛ったままマシンに装着してしまうと、注湯口から出てきたお湯はそのまま粉をかきわけてフィルターから外へ出て行ってしまいます。エスプレッソマシンの注湯口はシャワーヘッドになっているので、お湯に接するコーヒー粉は比較的多いとはいえ、接した部分はたちまち出がらしになってしまう一方、接していない部分からは旨味成分が溶け出ないという状況は同じです。


5.タンピングの必要性

 そこで考案されたのが、コーヒー粉を押し固めるという技法です。こうすると、注湯口から出てきたお湯はそのまま粉をかきわけることができず、一旦は粉の上部に溜まります。しかし、粉の上部がお湯で満たされ、更に注湯口から圧力のかかったお湯が供給され続けると、その圧力は満たされたお湯を通じて粉全面にかかります。こうしてお湯は、粉全体の中を下へと押し出されていき、フィルターを通ってカップに落ちていきます。

 このように、粉全体にお湯がいきわたることにより、旨味成分をまんべんなくお湯に溶かし出すことが可能になります。こうして細挽きの粉から旨味成分を効率よくお湯に溶かし出して濃厚なコーヒーを抽出することが可能になりました。

 エスプレッソコーヒーという抽出方法について、蒸気やピストンやポンプを使ったマシンを考案した人の名前は語り継がれていますが、実は、タンピングの技法はマシンの考案と並んでエスプレッソコーヒー抽出には不可欠の考案であり、誰がこの技法を編みだしタンパーという道具を考案したのかが後世に伝えられていないのは残念なことです。


6.粉の圧縮の重要性

 タンピングにはコーヒー粉の圧縮という機能と成型という機能があります。粉の圧縮とは、粉を押し固めることにより、粉の間の空間を減らすことと、粉を相互に密着させて結合を強めることを意味します。

 タンピングが不十分で粉の間の空間が多く残っていると、圧力のかかったお湯は、そこから下へと通り抜けてしまい、お湯と粉の接触が少なくなってしまいます。また、タンピングが不十分で粉が相互に密着していないと、お湯の勢いで粉がバラバラになり、お湯の中で泳ぎ回る状態になってしまいます。

 コーヒー豆の粉の一粒一粒の内部に詰まった旨味成分をしっかりと溶かし出すには、粉をしっかり押さえつけておく必要があります。お湯の中で粉が自由に泳ぎ回る状態よりも、しっかり固定された粉の間に圧力のかかったお湯を強制的に通していく方が、旨味の凝縮された濃厚なエスプレッソを抽出できるのです。


7.粉の成型の重要性

 粉の成型とは、粉を押し固める際に、お湯の逃げ道を作らないような均一な形状にすることを意味します。たとえば、仮にしっかりと力を加えて粉の圧縮を行ったとしても、力が斜めに加わってしまえば、粉の表面は斜めに傾斜してしまいます。この場合、コーヒー粉の層には厚い部分と薄い部分が生じてしまうことになります。

 そうすると、圧力がかかったお湯は、少しでも抵抗の少ない、薄い部分を通じて外に出て行こうとするので、薄い部分の粉は比較的早く出がらしになってしまう一方、厚い部分の粉は十分にお湯に接することなく旨味成分が十分に溶け出さないという状態になります。更に極端な場合には、薄い部分の粉がお湯の圧力でえぐられてしまい、お湯は一気に逃げ道を通って外に出てしまいます。

 同様に、不均等なタンピングを行った結果、見かけ上の粉の厚さは同じでも、粉の密度の大きな部分と小さな部分がむらになっている場合、圧力のかかったお湯は密度の小さな部分を逃げ道としてしまいます。あるいは、フィルターの内壁と粉の間にわずかな隙間が生じても、そこが逃げ道になってしまう場合があります。

 タンピングによりきちんと粉を成型し、お湯の逃げ道をなくすことで、コーヒーの旨味成分を過不足なくお湯の中に溶かし出すことが可能になるのです。


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