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エスプレッソに関する誤解

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カフェインと健康

デカフェ(カフェインレス)のコーヒー豆

はじめに

 最近、デカフェ(カフェインレス)のエスプレッソを出す店を見かけるようになりました。デカフェの話はエスプレッソに限らずコーヒー一般の話ですが、カフェインに関心の高い人の多いアメリカで普及したデカフェのコーヒーが、シアトル系のエスプレッソ関連飲料の日本での広まりと一緒に広まり始めているのでしょうか。まだ日本に普及してきたとは言えませんが、関心を持つ人は着実に増えてきているようです。特に妊産婦の関心が高いようです。(別のページで妊産婦とエスプレッソについて説明していますので、参照して下さい。)

 しかし、これがどういう豆かという説明がないので「体に悪いのでは」「まずいのでは」という不安や誤解を招きがちです。そこで、ここでは、デカフェ(カフェインレス)のコーヒー豆について説明します。

語源と定義

 「カフェインレス(caffeineless)」というのは「カフェインのない」という意味の和製英語です。アメリカでは通常「カフェイン・フリー(caffeine free)」と言います。特にコーヒーについては、「デカフェネーテッド(decaffeinated)コーヒー」、つまり「カフェインを除去したコーヒー」と言うことが多いです。略してデカフェ(decafe)と言います(話し言葉では更に略して D-caf と言うこともある)。

 英語の発音は「デカフェ」でなく「ディーキャフェイ」あるいは「ディーキャフ」なのですが、日本国内で「マクドナルド」を「マックダーノー」と発音しても仕方がないのと同様、ここでは現地音にはこだわらず、以下「デカフェ」と言います。

 デカフェだからと言ってカフェインを100%除去しているとは限りません。日本国内でもミルクについては「ノンファット」と「ローファット」の違いが明確に意識されるようになりました。デカフェのコーヒーについては「カフェイン抜き」なのか「カフェイン控えめ」なのか、違いが明確に意識されていないようですが、日本国内でも、60%程度の除去にとどめた豆や、90数%を除去した豆などが売られています。ここでは双方を含めて「デカフェ」と言いますが、実際にデカフェのコーヒーを購入する際には、何%除去なのかを確認することをお勧めします。

カフェインを除去する方法
 工場では焙煎する前の乾燥生豆からカフェインを除去し、その後で焙煎します。カフェインを除去する方法は沢山ありますが、大きく分けると(1)薬品を使う方法(日本では輸入禁止)、(2)水を使う方法、(3)二酸化炭素を使う方法があります。現在では(2)の水を使う方法が主流です。以下、それぞれの方法を簡単に説明します。

(1)薬品を使う方法
 直感的に言えば「コーヒー豆のドライクリーニング」です。コーヒー豆を塩化メチレンや酢酸エチルなどの有機溶剤に漬け込んでカフェインを溶かし出す方法や、コーヒー豆をお湯洗いしてそのお湯に有機溶剤を加えてカフェインを分離する(残ったお湯は後でコーヒー豆に戻す)方法があります。
 いずれにせよ有機溶剤は揮発しますし、ましてやコーヒー豆はそれから焙煎する訳ですから、有機溶剤の残留はほとんどありません。有機溶剤の中でも例えば酢酸エチルはブドウやライチの香り成分としても含まれており、特に奇形やガンの危険が指摘されている訳でもありません。欧米では使用が認められており、日本国内でも香り付けの用途では食品添加物として使用が認められているものです。
 しかし、デカフェのコーヒーに関心をもっている人はほぼ全員が食品への薬品残留問題に敏感ですので、水を使う方法が普及した現在では薬品を使う方法を嫌う人がほとんどです。水や二酸化炭素を使う方法のデカフェの豆を売る業者も、自分の売る豆の安全性を強調するために、薬品を使う方法の危険性を必要以上に強調する言い方をする傾向があります。
 ちょっと行き過ぎな気もしますが、まあコーヒーは嗜好品ですから、少々コストが高くても水や二酸化炭素を使った方法の方が気持ちよく受け入れられるのであれば、それで良いのでしょう。
 ちなみに日本では、食品衛生法の規定に基づき食品添加物等の規格基準が設定されており、これに適合しないものの輸入、販売等は禁止されています。つまり、有機溶剤を使ったデカフェのコーヒーはそもそも輸入禁止なのです。欧州各国の業者からは塩化メチレンや酢酸エチルを使用したデカフェについては認めて欲しい旨の要望が出されていますが、日本の役所の審査手続を踏むのはよほど煩雑なのか、申請にコストをかけると安さのメリットが失われてしまうのか、その後の話を聞きません。
 そういう訳で、日本国内で正規にデカフェの豆を売っている業者は、薬品を使う方法の豆を扱っていないので、安心して下さい。むしろ、あたかも薬品を使う方法の豆を売っている店が国内に他にあるかのような誤解と不安を与えて、自分の店の豆の安全性を宣伝する店がもしあれば、それは残念なことです。

(2)水を使う方法
 直感的に言えば「コーヒー豆のお湯洗い・フィルター濾過」です。「スイス・ウォーター・プロセス」とも呼ばれています。大まかに言って次のような手順で行います。
1.コーヒー豆をお湯に浸ける。お湯の中にはカフェインも旨味成分も溶け出す。
2.コーヒー豆をお湯から取り出す。この最初のコーヒー豆はもう使わない。
3.残ったお湯をフィルターで濾過してカフェインを除去する。旨味成分はお湯に残る。
4.このお湯の中に新たなコーヒー豆を漬ける。既に旨味成分はお湯の中にあるので、本番のコーヒー豆からはこれ以上溶け出さず、カフェインのみが溶け出す。
5.コーヒー豆をお湯から取り出す。このコーヒー豆を乾燥・焙煎して販売する。
6.残ったお湯をフィルターで濾過してカフェインを除去する。旨味成分はお湯に残る。
7.このお湯の中に新たなコーヒー豆を漬ける。(以下繰り返し)
 この方法では薬品残留の不安はありませんし、小規模な工場でも実現可能です。それでも「カフェイン以外の旨味成分は本当にお湯に溶け出さないのか」「カフェイン以外の旨味成分もフィルターで濾過されてしまっているのではないか」「お湯に浸けたり乾かしたりして風味は落ちないのか」「何度も繰り返してお湯は古くならないのか」という不安は残ります。この点で、フィルターの素材(当初は活性炭を使っていました)や工場でのプロセスに工夫の余地は多々あり、業者によって味の善し悪しが分かれる余地があります。

(3)二酸化炭素を使う方法
 普通に水を沸騰させると液体(お湯)から気体(水蒸気)に変わりますが、これを220気圧の下で加熱していくと摂氏374度で、液体と気体の中間的な存在になるのだそうです。これを超臨界水といいます。この超臨界点の前後では少し温度や圧力を変えただけで液体に近くなったり気体に近くなったりして、その性質(物質の溶かし方など)も大きく変化します。でも摂氏374度という温度は高すぎてコーヒーには使えません。
 二酸化炭素は72.8気圧と摂氏31.1度で超臨界状態になります。この温度であればコーヒー豆への影響もほとんどありません。そこで、コーヒー豆を超臨界二酸化炭素で洗う方法が考案されました。カフェインが溶けやすい状態になるよう圧力と温度を設定してコーヒー豆を漬け込み、その後でカフェインが溶けにくい状態になるよう圧力と温度を変更すれば、溶けきれなくなったカフェインのみを容易に回収することができます。最終的に二酸化炭素は気体となって逃げてしまいますし、残っていても無害です。
 この方法は高価な設備を必要とするのでコスト高になりますが、安全性に加えてかなり正確に狙った物質のみを除去できることから、今後先進国では主流になっていくものと思われます。

デカフェのコーヒーはまずいか?

 デカフェのコーヒーを飲んだことのある人には「デカフェのコーヒーはまずい」という人が多くいます。実際に、デカフェのコーヒーには風味の喪失を感じさせるものが確かにあります。しかし、その理由は様々です。その理由を知ることにより、まずいデカフェに出会うリスクを少しでも減らすことができます。最近は美味しいデカフェのコーヒーも増えてきました。

(1)デカフェか否か以前の要因
 デカフェ用の豆に安物のコーヒー豆を回せば、出来上がったデカフェの豆はまずくなりますが、これはデカフェだからまずいのではありません。
 「デカフェの好きな人は他に選択の余地がないから安物の豆でも買うだろう」と考える業者はいないと信じたいですが、そうでなくても、豆の販売価格を同じにするために、コストのかかるデカフェにはコストの安い豆を使う、ということがあるかもしれません。このようなリスクは信頼の置けるお店を選ぶことによって容易に回避できます。
 また、デカフェの豆の需要が少なければ、豆の回転が悪いので、焙煎後の日数が経過した豆に出会う可能性も高くなります。これは、焙煎日を教えてくれる店、あるいはデカフェの豆が多く売れている店を選ぶことで回避されます。
 つい最近まで、日本のお店でもエスプレッソ用の豆は売場の片隅に一種類だけがひっそりと置かれていて選択の余地がない状況でした。最近になって多くのお店で選択肢が広がってきましたが、それでもドリップ用のレギュラーコーヒーと比べると需要はわずかなものです。エスプレッソ用にせよデカフェにせよ、消費者の強い関心が集まらない商品には良い状態の豆は回らないでしょう。多くの人が関心をもってデカフェを飲むようになれば、自然とデカフェの選択肢も広がり美味しさも底上げされると期待しています。

(2)プロセスの管理による要因
 正規のルートで出会うことはないはずですが、薬品を使った方式の豆の一部には薬品の臭いがわずかに残っている可能性があります。
 水を使った方法では、業者により、水温や浸け置く時間やフィルターの素材や処理後の乾燥方法などのノウハウが異なるので、中には風味が落ちているものもあるかもしれません。この辺は企業秘密も多いようなので表示を求めることは難しいでしょうが、少なくとも店頭のデカフェの豆がどの方法で作られているか、カフェインは何%除去されているかを店員が説明できる店は信頼性が高いと言えます。

(3)デカフェの宿命的要因
 数百種類あるとも言われるコーヒー豆の成分の中で、カフェインのみを完全に除去して他の成分は全く損なわない、というのは理想ですが実際には不可能です。技術の進展により精度は上がってきましたが、カフェインやタンニンと一緒に旨味成分の一部が失われるのは仕方がないでしょう。もし風味が足りないと気になる場合は、コーヒーシュガー(カラメル色の砂糖)やフレーバーシロップで甘みを付けたり、ミルクを加えてカフェラテやカプチーノにするなど、飲み方を変えてみるのも一案です。

おわりに

 最近は風味の劣化を余り感じさせないデカフェも増えてきましたが、まだまだ日本では普及しておらず、底辺は狭いようです。デカフェの豆に関心をもって飲む人が増えれば美味しいデカフェの豆も供給されるようになる、という面もありますし、美味しいデカフェの豆が供給されるようになればデカフェの豆に関心をもって飲む人も増える、という面もあります。両者が好循環に入ることを期待しています。



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