|
はじめに
若い女性がエスプレッソ系飲料をよく飲むようになりましたが、妊産婦がコーヒーを飲んでよいかについては、「飲まない方がよい」「1日1~2杯ならよい」「1日3~4杯なら良い」など、様々な人が様々なことを言っています。しかもその根拠も様々です。ここでは、私の考えを整理してお話しします。
コーヒーの何が問題なのか
エスプレッソに限らず、妊婦にコーヒーを勧めない人の主張には、(1)「カフェインの副作用」以外に、(2)「カフェインは妊婦に必要なカルシウムの吸収を妨げる」、あるいは(3)「タンニンは妊婦に必要な鉄分の吸収を妨げる」というものがあります。いずれも、コーラやお茶を含め様々な飲み物との関係で注意が必要な事項です。
このうち、(2)のカルシウムに関しては、医師の治療を受けるほどカルシウム不足に問題を抱えている人でなければ、1杯のコーラやお茶の影響を気にして控えるよりも、カルシウムの多い食べ物を多く摂るよう心がける方が前向きな対応です。更に、コーラやお茶と違ってコーヒーには、カルシウム満点の牛乳と相性がよいという長所があります。エスプレッソよりもカプチーノやカフェラテの方がお勧めです。
また、(3)のタンニンについても、鉄分不足で錠剤の処方を受けている人が同時にコーヒーやお茶を飲むと錠剤の効果が薄れますが、食事の合間に1杯のコーヒーやお茶を飲むことで体内の鉄分がどんどん失われるという訳ではありません。
そこで、以下では(1)のカフェインの副作用についてもう少し掘り下げてみます。
カフェインの何が問題なのか
妊婦とカフェインと言うと、どうしても「カフェインの胎児への悪影響(奇形その他の異常?)」が心配になりますが、そのような根拠ある報告はなされていません。明らかになっているのは、「カフェインの適度な摂取は普通の人には良い影響も与えるが、カフェインの過度な摂取は普通の人にも副作用を及ぼす」ということです。副作用という点では普通の人も妊婦も同じであり、副作用の性質が特に異なる訳ではありません。
では普通の人と妊婦で何が違うのかと言えば、カフェインの代謝速度にあります。妊婦の体からはカフェインが抜けるのが遅いので、カフェインがたまりやすく、摂りすぎになりやすいのです。
これは、母乳育児の産婦にとっても同様です。乳児の体からはカフェインが抜けるのが非常に遅いので、カフェインがたまりやすく、摂りすぎになりやすいのです。
カフェインの代謝速度
カフェインの代謝速度については様々な報告がありますが、下記の著作に簡潔な要約があるので引用します。
カフェインのハーフ・ライフ(体の中に入ったカフェインが半分だけ排出されるのに必要な時間)は、年齢、ホルモンの状態、喫煙の有無あるいはピルなどの薬を飲んだ影響で数時間から数日に及ぶという。新生児はカフェインを代謝する酵素を持っていないので3~4日もかかる。それにもかかわらず母親が飲んだカフェインはどんどんお乳の中に入っていく。小児と煙草を吸う人は3時間以下、平均的な煙草を飲まない成人では3~7時間、ピル服用中の婦人は13時間とさまざま。妊婦では特に最後の3ヶ月では大変多く18~20時間もかかるという。 (友田五郎著「序説 珈琲学」より)
(煙草を吸うとカフェインの代謝が活発になるというのはちょっと意外ですが、当然ながら、妊婦がコーヒーを沢山飲む目的で煙草を吸うというのはお勧めしません。)
後述するように数字には幅がありますが、妊婦や乳児のカフェイン代謝速度は非常に遅いです。これがどういうことかをたとえ話で説明します。
普通の女性が朝昼夕の食後と夜に1日4杯のコーヒーを飲んでいるとします。この習慣が問題なく続いているのであれば、食事の間にカフェインは排出されているのでしょう。さて、この女性が妊娠しました。朝飲んだコーヒーのカフェインは昼までに半分しか排出されませんでした。でも昼にまたコーヒーを飲んだので体内のカフェインは1.5杯分になりました。夕方までにその半分が排出されましたが、また飲んだので体内のカフェインは1.75杯分になりました。夜にはその半分が排出されましたが、また飲んだので1.875杯分になりました。寝ている間にその半分が排出されましたが、また朝がきました…。
このたとえ話では、体内にコーヒー1杯分~2杯分のカフェインが常に残っている状態で安定します。際限なくカフェインが体内に蓄積していく訳ではないので、この例え話ではカフェインの副作用は出ないでしょう。しかし、(1)代謝量が特に遅い人の場合、(2)一度にダブルやトリプルで飲む場合、(3)カフェイン含有の多い豆(ロブスタ種の豆など)を使ったコーヒー(インスタントや缶コーヒーに多い)を飲む場合、(4)抽出の方法が悪い場合(過抽出の出がらし状態など)、などの場合には更にカフェイン摂取量が増えるので注意が必要です。
許容杯数には個人差あり
「では一日何杯まで大丈夫なのか」という疑問が生じると思いますが、残念ながらこれは個人差が大きいのです。お酒の場合は皆さん御存知の通り、アルコールの分解速度が速い人から遅い人まで様々です。「お酒を味わうのは好きだがすぐ酔うので余り量は飲めない」という人も多いでしょう。コーヒーについても同様に、カフェインの分解速度が速い人から遅い人まで様々です。お酒と違って自覚している方は少ないですが「コーヒーを味わうのは好きだが美味しくても余り量は飲めない」という人も多いのです。こういう方はカフェインの分解速度が遅いと思われます。酒に強い人と弱い人がいるように、コーヒーにも強い人と弱い人がいるのです。
普通の人でも、コーヒーを飲み過ぎて尿意を催す程度であればともかく、脈が速くなったり気分が落ち着かなくなるようでしたら、適量を超えているのだと思います。妊婦の場合、その適量を超えた状態に普段より簡単に達しやすいので、普段よりは間隔を空けて飲んだ方が良いのですが、その間隔がどの程度かには個人差があります。コーヒー1杯を飲む分は構わないのですが、次の1杯を飲むタイミングは各自の体調に合わせてください。
母乳ママは特に注意
妊婦よりもカフェインの代謝が遅いのは乳児です。これまで述べたように、母乳に含まれるカフェインが乳児に障害を与えるという訳ではありませんが、母乳に含まれるカフェインが赤ちゃんの体から抜けるには時間がかかるので、副作用を自覚することのできない赤ちゃんに対しては慎重さが必要です。もちろん副作用といっても直ちに障害を与えるようなものではないので過度に怖がる必要はありませんが、そもそも、仮に健康上の問題が全くないとしても、せっかく授乳したのに赤ちゃんが眠りにつくどころか更にお目目パッチリになったらママも困りますよね。もし心配であれば、デカフェ(カフェインレス)のコーヒーをお勧めします。
なお、母乳がよく出るようにミルク入りのカプチーノやカフェラテで飲みたい産婦も多いと思いますが、順調に母乳が出始める前に乳製品を摂りすぎるとかえって供給過剰で乳腺に悪いので注意して下さい。順調に母乳が出始めた後も、脂肪分を摂りすぎると乳腺が詰まりやすいので、低脂肪乳(生乳から作った部分脱脂乳)の使用をお勧めします。
デカフェ(カフェインレス)のコーヒー豆
別のページでデカフェ(カフェインレス)のコーヒー豆について説明していますので、参照して下さい。簡単に言えば、各種の方法でカフェインを除去したコーヒー豆です。国内では薬品を用いた方法の豆は販売禁止であり、水や二酸化炭素を使っているので健康への心配はありません。但し、コーヒー豆の旨味成分もカフェインやタンニンと同時に若干は除去されてしまうので、若干は風味が落ちますが、変な味が付加される訳ではありません。いずれにせよ、カプチーノやカフェラテにすれば違いは目立ちません。デカフェの豆はスターバックスやセガフレードのようなチェーン店や、珈琲問屋やドイコーヒーのような自家焙煎店の通信販売で入手可能です。
おわりに
妊産婦でない人が「妊産婦はコーヒーを飲んではいけない」と助言するのは簡単ですし無難です。しかしそれは「妊婦は危ないから街に出てはいけない」と助言するのと同じで、度が過ぎると理不尽な我慢を押しつけることになってしまいます。ストレスがたまると健康にも逆効果になりかねません。
念のためコーヒーは飲まない方が気が楽だという方はそれで良いし、時々は楽しみたいという方もそれで良いと思います。デカフェのコーヒーが飲める環境にあれば試してみる価値がありますし、特に授乳中の方にはお勧めです。普通の(カフェイン入りの)コーヒーを飲む場合には普段より頻度を落とした方が良いですが、どの程度落とした方がよいかは各自の体調に合わせて決めて下さい。これはエスプレッソでもドリップコーヒーでも同じです。
エスプレッソ系飲料が若い女性に普及している現在、妊産婦とエスプレッソの関係について妊産婦が自分で考える際の材料がほとんどないのが気がかりでした。結論は人により異なると思いますが、このページが自分の考えをまとめる際の参考になれば幸いです。
(関連サイト)
「やっぱりお医者さんの言葉が聞きたい!」という方にはこちらのサイトをお勧めします。私がこのページの執筆に際してネット検索した中では、一番分かりやすく、私の考えにも近い内容でした。
(妊娠中の場合)http://www.babycome.ne.jp/online/soudan/soudan50.html
(授乳中の場合)http://www.babycome.ne.jp/online/soudan/soudan51.html
|