第16話 ブレンドは豆のオーケストラ
コーヒー豆を買いに行くと、「モカ」や「マンデリン」などのストレート豆と「○○ブレンド」というブレンド豆が並んでいる。エスプレッソ用の豆は大抵がブレンドである。「ブレンド」というと、何となく「混ぜ物」=「安物」という響きがあるが、このイメージは必ずしも正しくない。
クラシック音楽が好きな人に「バイオリンの独奏と、オーケストラの演奏と、どちらが優れていますか?」と尋ねると、「それぞれに良さがあって一概には言えない」と答える人もいるだろうし、「独奏にも良い独奏と悪い独奏があり、オーケストラにも良い演奏と悪い演奏がある」という人もいるだろう。独奏はその楽器の持ち味が明確に現れるので、その個性を存分に楽しめる。オーケストラでは様々な楽器がお互いにない持ち味を補いあって豊かなハーモニーを奏でる。どちらが好きかは個人の好みの問題であり、どちらが優れているかという話ではない。
世間には独奏会で客を呼べる名演奏家の数よりも演奏会で客を呼べるオーケストラの方が数が多いと思うが、それは、オーケストラのハーモニーがより万人受けするからかもしれないし、個々人の能力を補いあえるオーケストラの方が一定水準に達しやすいからかもしれない。
オーケストラは、独奏と違ってメンバーの交代が少々あっても全体の持ち味が大きく変わることは少ない。ピンからキリまであるオーケストラの良し悪しを大きく左右するのは指揮者である。指揮者は本番で指揮棒を振るだけでなく、練習の過程からそのオーケストラを指導し、自分のイメージする音楽を実現する。指揮者が変わっただけでオーケストラ全体の持ち味が大きく変わってしまうことも珍しくない。有名な指揮者による演奏が人気を集めるのは、オーケストラや曲目の違いを越えて、その指揮者に対する信頼感・安心感があるからであろう。
エスプレッソ用の豆は大抵がブレンドであるが、ブレンド豆は決してストレート豆より劣っている訳ではない。個々の豆の個性を補いあってハーモニーを生み出すブレンド豆の方が、万人向けで親しみやすく、手頃な価格で売られている。
もちろんブレンド豆にもピンからキリまであり、その良し悪しはブレンダー次第である。大手メーカーやチェーンでは複数のスタッフが、中小の焙煎豆販売店では店主が、生豆の選択、購入から焙煎、ブレンドまでを監督し、イメージする味を作り上げている。
ブレンド豆を買うときは、それをブレンドしたメーカーや店を信じて買ってみよう。それが自分に合わなかったら、次回は別のメーカーや店のものを買ってみよう。ブレンド豆はそのメーカーや店の顔であり、自分の好きな豆を探すということは、自分の好きなメーカーや店を探すということでもあるのだから。
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