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コーヒーとエスプレッソの違い

はじめに - 器具が違う - 豆が違う - 成分が違う - 分量が違う - 飲み方が違う - おわりに - 表面の泡


表面の泡

エスプレッソの泡について


はじめに

 エスプレッソの表面には細密な泡(クレマ)が浮いていることがあります。本格的なエスプレッソになると、表面を微細な泡が覆い隠します。非常に濃厚な泡なので、 スプーン一杯の砂糖を表面にそっと振りかけて鑑賞すると、泡の層の上に砂糖が一瞬積もった後、じわりとコーヒーが浸みてきて、ゆっくりと泡の層の中に沈んでいきます。見るからに美味しそうです。
 しかし、泡の量が多い場合もあれば少ない場合もあり、白っぽい場合もあれば焦げ茶色っぽい場合もあります。泡が少なくても美味しい場合もあれば、泡があるのに美味しくない場合もあります。
 この泡が何であるか、また泡とエスプレッソの味がどう関係しているかについて、いろいろな人がいろいろな事を言っています。私は現時点で次のように理解しています。

エスプレッソの成分

 コーヒー豆には数百種類もの成分が含まれています。この中で美味しい成分を出来るだけ沢山お湯に溶かし出し、かつ美味しくない成分が出来るだけ溶け出さないようにするのがコーヒー抽出の目的です。しかし、個々の成分の組み合わせや割合は豆の種類や焙煎の程度によってまちまちですし、それらの個々の成分の溶け出し方も、お湯の温度や圧力や抽出時間によってまちまちです。我々は個々の成分を自由にコントロールできないので、特定の焙煎豆と、特定の抽出方法(温度と圧力と時間の組み合わせ)に対して、数百種類の成分がそれぞれのペースで溶け出てきたものを、一体のセットとして味わい、味の良し悪しや好き嫌いを比べています。

泡の気体成分と量

 焙煎されたコーヒー豆には気体成分(主に二酸化炭素)が含まれています。気体はお湯の圧力が高いほど多く溶ける性質をもっているので、他の条件が一定であれば圧力が高いほど泡の気体成分が多くなります。また、焙煎されたコーヒー豆からは刻一刻と気体成分が逃げ出していくので、他の条件が一定であれば焙煎後の時間が経つほど泡の気体成分が少なくなります。つまり、焙煎後間もない豆に高い圧力をかけてエスプレッソを抽出すればより沢山の泡が立ちます。
 沢山の泡が立てば、口当たりがなめらかになる、保温効果が高まるなどの良い効果がありますが、泡が多いほど量に比例してエスプレッソが美味しいという訳ではありません。

泡の液体成分と量

 お湯に溶けだした数百種類の成分の中には界面活性剤(シャボン玉における石鹸)の役割を果たす成分も含まれており、これらが気体成分を包んで泡をつくります。一般的に気体は圧力が高いほど良く溶けますが、このような液体成分(正確に言えば、お湯に溶けた固体成分)の溶け具合は、温度には関係しますが圧力にはほとんど関係ありません。したがって、圧力をかけずに抽出したコーヒーを茶筅でかき混ぜたり空気ポンプで泡立てたりしても泡は立ちます。しかし、そのような人工的に作った泡よりも、圧力をかけてコーヒー内部に溶け出した気体成分が表面に浮いてできた泡の方がはるかに濃密です。

泡の液体成分と色

 気体成分を包んで泡をつくる液体成分がエスプレッソの美味しさの秘密かと言えば、必ずしもそうではありません。この成分の内訳は一定していません。液体成分(正確に言えば、お湯に溶けている固体成分)の溶け具合は圧力には余り関係ありませんが、温度には大きく関係しますし、抽出時間や粉とお湯の接触状況によっても大きく変わります。その結果、表面に浮かぶ泡の色は場合によって様々に変わります。先人達の経験則として、泡が黄金色ないし赤茶色のときにエスプレッソが一番美味しいことが知られています。これは、その色の泡をつくる液体成分が美味しいというよりも、泡がその色をしている時に、泡の下にある液体(エスプレッソ本体)を構成する数百種類の成分の組み合わせが美味しいということです。

泡の読み方

 したがって、エスプレッソの表面に浮いた泡は少なくとも二つのことを我々に教えてくれます。まず泡の量は、コーヒー豆の新鮮さと圧力の高さ、および抽出方法の確かさ(豆の挽き具合や詰め込み方が悪いとしっかり圧力がかからない)を示します。泡の量が少ない場合は上記のいずれかに問題があることが推測されます。次に、泡の色は、経験則と合わせればエスプレッソの美味しさ(コーヒー豆の諸成分のお湯への溶け出し具合)を示します。エスプレッソの泡を非常に重視する人が多いのはこのためです。

泡の読み方の限界

 ただし、このような泡の読み方には限界があります。まず泡の量についていえば、美味しいコーヒー豆でも焙煎後日数が経過すれば減ってきますし、美味しくない豆でも焙煎直後には多いです。したがって、種類が異なり鮮度も異なる豆を泡の量で比較することはできません。焙煎1日後の美味しくない豆よりも、焙煎1週間後の美味しい豆の方が、泡は少なくても飲めば美味しいはずです。
 次に泡の色についていえば、見ただけで美味しさを判断するのはそう簡単ではありません。美味しいエスプレッソの泡の色は本や雑誌の写真をみて参考にすることはできますが、豆が異なればベストの抽出の際の泡の色も異なります。したがって、豆の種類が異なり抽出状態も異なるエスプレッソを泡の色で比較するにはある程度の経験が必要です。

クレマ増強装置の長所と短所

 家庭用エスプレッソマシンの中には、特殊なフィルターを使って泡の量を増強する機種があります。抽出後に茶筅で泡立てるのと似たような原理ですが、専用フィルターを用いて抽出と同時に行うため、ある程度濃密な泡が多くできます。しかし、泡が多いと一体何が嬉しいのか、という目的意識がはっきりしていなければ、単なる手入れが面倒なフィルターでしかありません。
 焙煎後時間が経って泡立ちが悪い豆でも抽出具合の確かさを視覚的にも確認したい、という人や、泡による口当たりの滑らかさや保温効果を期待する人であればこのフィルターは役に立つでしょう。単に泡立つエスプレッソが美味しいエスプレッソだと思っていて、味はどうでも良いから泡立ったエスプレッソが好きという人にもこのフィルターは役に立つでしょう。
しかし、美味しいエスプレッソを飲みたいと思っているのに、単に泡立つエスプレッソが美味しいエスプレッソだと誤解している人や、美味しいエスプレッソを目指して抽出技術を磨きたい、という人にとっては、この装置は短所の方が大きいかもしれません。

クレマ至上主義の危険性

 そもそも「エスプレッソの判断基準は飲んで美味しいかどうかであり、泡がなかろうと美味しい時には美味しいし、泡があっても不味い時には不味い」という人ばかりであれば、増強フィルターという考案はなされなかったかもしれません。単に泡立つエスプレッソが美味しいエスプレッソだと思いこんでいる人が増えるほど、この種の装置は発達します。一番怖いのは、誠実でないお店が「泡さえ出ればいいんでしょ」と安易にいい加減な泡立ちコーヒーを出し、客の方も「泡立っているからこれが本格的なエスプレッソなのだろう」と我慢してそれを飲み、そして「どうも自分はエスプレッソは苦手なようだ」と早とちりしてエスプレッソから遠ざかってしまうことです。

日本の現状

 幸か不幸か、日本ではまだエスプレッソについて良く知られていないので、「泡が浮いているのが美味しいエスプレッソの証拠である」と無条件に信じ込んでいる人もまだ少ないようですが、この1〜2年の間に増えつつあるようです。将来、多くの人がそのような誤解をするようになれば、質の悪いコーヒーに意図的に泡を立たせる不誠実な店や業者も現れるかもしれません。現在のところは、エスプレッソをより美味しく見せようという演出の意図で泡を強調するマシンや店が若干ある程度であり、不誠実どころかむしろ「泡なんて無理に立てなくても十分美味しいのに」ともったいなく思うことすらあります。

おわりに

 冒頭にも書きましたが、エスプレッソの表面に浮いていることのある細密な泡が何であるか、また泡が浮いていることが美味しいエスプレッソの条件なのかについて、いろいろな人がいろいろな事を言っています。泡の成分や泡と美味しさの関係については解明されていないことが多いですが、コーヒーは嗜好品ですから、重要なのは自分にとって美味しいか不味いかです。泡に気を取られず、その下にあるものが自分にとって美味しいか不味いかという素直な気持ちを大事にして下さい。


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